これは私の過去の話です。

医師になり、どんなに忙しくても「耐えろ、今は何も感じるな」と自分に言い聞かせてきました。
辛くても悲しくても、「いつでも冷静でいなきゃ」と、感情を抑え込んでいました。自分で選んだ道だからこそ、感じる感情に蓋をして、ただひたすら走り続けてきたのです。

10年が経ち、病院を離れて目標だった在宅医として働き始めました。でも夢を叶えたはずなのに、心にぽっかりと穴が空いているような気がして、どこか満たされない自分がいました。

「これからの人生、どう生きたいですか？」

末期の心不全や癌の患者さんにそう問いかけると、彼らはいつもはっきりと答えてくれます。
そのたびに、私はハッとさせられました。

もし自分だったら、どう答えるだろう？夢を叶えたはずなのに、これからどう生きたいんだろう？私の喜びは何で、幸せを感じるのはどんな時？何も思い浮かばない自分に気づきました。

これまで医師として感情を押し殺して生きてきましたが、それで本当に良かったのか疑問が湧いてきました。
人生の終わりに「最高の人生だった」と言えるようにしたい。これは目の前の患者さんだけでなく、自分自身に対しても同じ思いでした。

そこから私は、自分の内面と向き合い始めました。気になる本を読み、セミナーに通い、ヒプノセラピーなど潜在意識にアプローチする方法も学びました。

自分に「これからどう生きたい？」と問いかけると、心の中に確かに存在する「幸せに導くコンパス」を感じ取れるようになりました。他人と比べることなく、「医者らしく」あることに囚われず、少しずつありのままの自分を表現できるようになっていきました。

そんなある日、同僚や友人から「最近、何かいいことあった？」と声をかけられることが増えました。輝いて見えると言われ、これまでの経緯を話すと、多くの医師が同じ悩みを抱えていることに驚きました。
みんな、誰かや仕事を優先して自分の感情を抑え、必死に生きているのです。
あの時の私のようにがむしゃらに走り、本来の自分を見失った経験があるからこそ、一度立ち止まって自分を見つめ直す大切さがわかります。

そして、在宅医として患者さんの人生に寄り添う経験を積んだ今の私だからこそ、より深く伝えられることがあると感じています。

そんな思いから、私と同じように働きながら人生やキャリアに悩む医師たちに向けて、「心のコンパス」に気づき、自分自身を知り、より自分らしい人生とキャリアを切り拓くサポートをするプログラムをスタートしました。